業務システムを導入するとき、
「既存のSaaSを導入すれば十分なのか」
「自社専用のシステムをスクラッチ開発した方がよいのか」
という判断に迷う企業は少なくありません。
結論からいうと、標準的な業務であればまずSaaSを検討し、自社独自の業務フローや競争力につながる仕組みが重要な場合はスクラッチ開発を検討するのが基本です。
ただし、単純に「SaaSは安い」「スクラッチ開発は高い」という基準だけで決めると、導入後に次のような問題が起こることがあります。
- SaaSを導入したものの業務に合わない
- 結局Excelやスプレッドシートを併用している
- SaaS同士のデータ連携に手間がかかる
- 必要な機能が追加できない
- スクラッチ開発したものの開発費が膨らんだ
- 本来SaaSで十分だった機能を一から作ってしまった
重要なのは、SaaSとスクラッチ開発の特徴を理解したうえで、自社の業務にどこまで独自性があるのかを整理することです。
この記事では、SaaSとスクラッチ開発の違いから、費用、メリット・デメリット、具体的な判断方法まで実務を想定して解説します。
SaaSとスクラッチ開発の違い
まず、SaaSとスクラッチ開発の基本的な違いを整理します。
SaaSとは
SaaS(Software as a Service)とは、インターネット経由で利用する既成のソフトウェアサービスです。
代表的なものとしては、次のようなサービスがあります。
- 顧客管理
- 営業管理
- 勤怠管理
- 会計
- 経費精算
- チャット
- プロジェクト管理
- 予約管理
自社でシステムを一から開発する必要がなく、アカウントを作成して初期設定をすれば比較的短期間で利用を開始できます。
スクラッチ開発とは
スクラッチ開発とは、自社の業務や要件に合わせてシステムを個別に設計・開発する方法です。
例えば、
「案件を登録すると担当部署に自動でタスクを作成する」
「在庫数が一定以下になったら発注候補を自動作成する」
「顧客情報、契約情報、請求情報を1つの画面で確認する」
といった、自社独自の業務フローに合わせた機能を作ることができます。
SaaSとスクラッチ開発を比較
主な違いを整理すると次のようになります。
| 比較項目 | SaaS | スクラッチ開発 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 比較的低い | 比較的高い |
| 導入期間 | 短い | 長くなりやすい |
| 月額費用 | 継続的に発生 | サーバー・保守費など |
| カスタマイズ性 | 制限がある | 高い |
| 業務への適合 | SaaSに業務を合わせる場合がある | 業務に合わせて設計できる |
| 機能追加 | サービス仕様に依存 | 独自に追加可能 |
| 外部システム連携 | APIなどの範囲に依存 | 柔軟に設計可能 |
| 保守 | SaaS事業者が担当 | 自社または開発会社 |
| バージョンアップ | 原則自動 | 必要に応じて実施 |
| 独自性 | 出しにくい | 出しやすい |
どちらが優れているということではありません。
重要なのは、システムに求める役割によって使い分けることです。
SaaSが向いているケース
まずはSaaSを選んだ方がよいケースを見ていきましょう。
業務が一般的である
例えば、
- 勤怠管理
- 経費精算
- Web会議
- 社内チャット
- 会計
- 一般的な顧客管理
など、多くの企業で共通する業務については、すでに優れたSaaSが存在します。
こうした業務を自社専用システムとして一から開発しても、費用対効果が合わないことがあります。
できるだけ早く導入したい
スクラッチ開発では、
要求整理
↓
要件定義
↓
設計
↓
開発
↓
テスト
↓
リリース
という工程が必要です。
一方、SaaSであればサービスによっては契約後すぐに利用を開始できます。
「まず業務をデジタル化したい」という段階ではSaaSの方が適していることが多いでしょう。
初期投資を抑えたい
SaaSは月額料金で提供されるサービスが多いため、大きな初期投資をせずに導入できます。
特に、
- 小規模事業者
- スタートアップ
- 新規事業
- システム化の効果を検証したい企業
では、最初から大規模なスクラッチ開発を行うよりSaaSから始める方法が現実的です。
システム運用を自社で抱えたくない
SaaSでは通常、
- サーバー管理
- セキュリティアップデート
- バックアップ
- システム更新
などをサービス提供会社が行います。
専任のIT担当者がいない企業にとっては大きなメリットです。
スクラッチ開発が向いているケース
一方、次のような場合はスクラッチ開発を検討する価値があります。
自社独自の業務フローがある
スクラッチ開発が最も効果を発揮しやすいのが、既存SaaSでは対応しにくい業務です。
例えばメーカーで、
受注
↓
在庫確認
↓
製造指示
↓
出荷
↓
請求
という一連の処理に独自ルールがあるとします。
一般的な在庫管理SaaSだけでは、
- 製造指示との連携
- 独自の商品構成
- 特殊な在庫引当
- 自社独自の帳票
などに対応できない可能性があります。
このような場合は、業務フローそのものに合わせてシステムを設計した方が効率的です。
複数の業務を1つのシステムにまとめたい
業務ごとにSaaSを導入していくと、
- 顧客管理はA
- 案件管理はB
- 在庫管理はC
- 請求管理はD
という状態になることがあります。
この場合、同じ情報を複数のシステムへ入力することになり、かえって業務が複雑になることがあります。
例えば、
顧客を登録
↓
案件を登録
↓
受注
↓
在庫を減らす
↓
請求データを作る
という一連の業務を1つのシステムで管理したい場合は、スクラッチ開発との相性がよいケースです。
Excelやスプレッドシートの限界が来ている
業務システム開発の相談でよくあるのが、ExcelやGoogleスプレッドシートからの移行です。
例えば在庫管理で、
- 商品マスタ.xlsx
- 入出庫履歴.xlsx
- 棚卸.xlsx
- 発注管理.xlsx
など複数ファイルが存在し、それぞれ手作業で更新している状態です。
この場合、
「在庫管理SaaSに切り替える」
という選択肢もあります。
しかし、自社独自の商品管理ルールや承認フローがある場合には、スクラッチ開発した方が業務に適合する可能性があります。
自社独自の機能が競争力になる
例えば物流会社が独自の配車ロジックを持っている場合や、製造業で独自の生産管理方法を持っている場合、その業務フロー自体が企業の強みになっていることがあります。
このような部分を一般的なSaaSに合わせてしまうと、強みを失う可能性があります。
業務プロセスそのものが競争優位につながっている場合は、スクラッチ開発を検討する価値があります。
SaaSで足りるか判断する5つのポイント
SaaSとスクラッチ開発で迷った場合は、次の5つを確認すると判断しやすくなります。
1. SaaSで業務の80%程度をカバーできるか
重要なのは、「すべての業務を完璧にカバーできるか」ではありません。
SaaSで主要業務の大部分を対応でき、残りを運用変更で吸収できるのであれば、SaaSの方が合理的な場合があります。
逆に、
「SaaSを使うために業務フローを大幅に変えなければならない」
のであれば注意が必要です。
2. SaaS導入後もExcelが大量に残らないか
SaaSを導入しても、
「この処理だけExcel」
「最後の集計はCSVをダウンロード」
「別システムへ手入力」
という状態になるケースがあります。
Excelを残すこと自体が悪いわけではありません。
しかし、システム間の転記作業が大量に残る場合は、本当に業務効率化できるのかを確認する必要があります。
3. 必要な外部システムと連携できるか
例えば、
- 会計システム
- ECサイト
- 基幹システム
- Google Workspace
- Microsoft 365
- Slack
- LINE
- メール
- 決済サービス
などとの連携が必要になることがあります。
SaaSを選ぶ場合は、APIやCSV連携などが用意されているか確認しましょう。
4. 利用人数が増えた場合の料金はどうなるか
SaaSは初期費用が低くても、利用人数によって月額料金が増える場合があります。
例えば1ユーザー月額3,000円の場合、
10人なら月3万円ですが、
100人なら月30万円です。
長期間利用すると、スクラッチ開発した場合より総コストが高くなるケースもあります。
そのため初期費用だけではなく、3年〜5年程度のTCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)で比較することが重要です。
5. 将来的に追加したい機能があるか
現在必要な機能だけではなく、
「今後どのように業務を変えたいか」
まで考えておくと判断しやすくなります。
例えば現在は予約管理だけでも、
将来的に、
- 顧客管理
- 会員機能
- 決済
- 回数券
- メール配信
- 売上分析
まで追加したい場合があります。
SaaSで拡張できるのか、あるいは独自システムの方が適しているのかを事前に考えておきましょう。
「SaaS+スクラッチ」という選択肢もある
実際のシステム開発では、SaaSかスクラッチかの二択とは限りません。
既存SaaSを活用しながら、足りない部分だけ開発する方法もあります。
例えば、
顧客管理:SaaS
↓
API連携
↓
独自の案件管理システム
↓
会計SaaSへデータ連携
という構成です。
この方法であれば、すでに完成度の高い機能を一から作る必要がありません。
すべてを作らないことも重要
スクラッチ開発というと「全部自社専用で作る」というイメージがあります。
しかし実際には、
- 認証サービス
- 決済サービス
- メール配信サービス
- クラウドストレージ
- AI API
- SaaS
などを組み合わせてシステムを構築できます。
必要な部分だけ独自開発することで、開発コストと柔軟性のバランスを取ることができます。
SaaSを選んで失敗しやすいパターン
SaaS導入で注意したいのが、機能一覧だけを見てサービスを選ぶことです。
例えば「在庫管理機能あり」と書かれていても、自社の在庫管理方法と一致しているとは限りません。
現在の業務を整理せずに導入する
まず確認すべきなのは現在の業務です。
これをAs-Is(現在の業務)と呼ぶことがあります。
例えば、
注文受付
↓
担当者がExcelへ入力
↓
在庫確認
↓
倉庫へメール
↓
出荷
↓
請求システムへ再入力
という業務があるとします。
この流れを整理せずに在庫管理SaaSだけを導入しても、業務全体はほとんど変わらない可能性があります。
SaaSに業務を合わせすぎる
SaaSに業務を合わせること自体は悪くありません。
むしろ、一般的な業務であれば標準化した方が効率的です。
しかし、自社にとって重要な業務まで無理にSaaSへ合わせると、
- 手入力が増える
- Excel補完が増える
- 例外処理が複雑になる
といった問題が発生する場合があります。
スクラッチ開発で失敗しやすいパターン
スクラッチ開発にも注意点があります。
最初から機能を作りすぎる
「あれも欲しい」
「将来使うかもしれない」
「せっかく作るなら入れておこう」
と機能を追加していくと、開発費と開発期間が増えていきます。
そのため最初は、
- 本当に必要な機能
- 手作業では負担が大きい機能
- 業務の中心となる機能
から開発することが重要です。
要求整理が不十分なまま開発する
要求とは、
「システムで何を実現したいのか」
という目的に近いものです。
例えば、
「在庫管理システムが欲しい」
だけでは、実際に必要なシステムは分かりません。
さらに具体化すると、
- 現在Excelで在庫管理している
- 3拠点で別々に管理している
- 在庫数がリアルタイムで分からない
- 電話で在庫確認している
- 月末に手作業で棚卸集計している
という課題があるかもしれません。
ここから初めて、
「3拠点の在庫を一元管理したい」
「入出庫と同時に在庫数を更新したい」
といった要求が見えてきます。
【コピペ用】SaaS・スクラッチ判断チェックリスト
どちらを選ぶべきか迷っている場合は、次の項目を整理してみてください。
- 現在どのような業務をシステム化したいか
- 現在使用しているExcelやシステムは何か
- 一番時間がかかっている作業は何か
- 二重入力・転記している作業はあるか
- 自社独自の業務ルールはあるか
- SaaSで主要業務をカバーできるか
- SaaS導入後もExcel作業が残るか
- 他システムとの連携は必要か
- 利用人数は何人か
- 今後利用人数が増える予定はあるか
- 将来追加したい機能はあるか
- システム導入によって何を改善したいか
この内容を整理したうえでSaaSやスクラッチ開発を比較すると、判断しやすくなります。
SaaSとスクラッチ開発で迷ったら、先に業務整理をする
SaaSとスクラッチ開発のどちらにするか決める前に、まず現在の業務を整理することをおすすめします。
順番としては、
現状業務の整理
↓
課題の整理
↓
実現したい状態の整理
↓
必要な機能の整理
↓
SaaSで実現できるか確認
↓
不足部分を検討
↓
SaaS・スクラッチ・組み合わせを判断
という流れです。
最初から、
「SaaSを導入する」
「システムを開発する」
と手段を決めてしまう必要はありません。
目的はシステムを導入することではなく、業務上の課題を解決することです。
SaaSとスクラッチ開発に関するよくある質問
SaaSとスクラッチではどちらが安いですか?
初期費用だけで比較すると、一般的にはSaaSの方が低くなります。
ただし、利用人数が多い場合や長期間利用する場合は月額料金が積み重なるため、必ずしもSaaSの方が安いとは限りません。
初期費用だけではなく、数年間の利用料、保守費、業務コストまで含めて比較すると判断しやすくなります。
小規模な会社でもスクラッチ開発する意味はありますか?
あります。
特に、少人数でも毎月大量の手作業が発生している場合は、小規模な業務システムを開発することで効率化できる可能性があります。
必ずしも大規模システムを開発する必要はなく、必要な業務だけを対象にした小規模なWebシステムから始める方法もあります。
SaaSを導入してからスクラッチ開発へ移行できますか?
可能です。
まずSaaSで業務を運用し、
「どの機能が必要なのか」
「どこが使いにくいのか」
を確認してから独自システムへ移行する方法もあります。
新規事業など、最初から要件が固まっていない場合には有効な進め方です。
SaaSと独自システムを連携できますか?
SaaS側にAPIやCSV入出力機能があれば連携できる可能性があります。
例えば顧客情報をCRMから取得して独自システムで処理し、結果を会計システムへ送るといった構成も可能です。
サービスを選ぶ際には、機能だけでなくAPIや外部連携の仕様も確認しておくとよいでしょう。
まだ要件が決まっていなくても相談できますか?
問題ありません。
むしろ、
「SaaSでよいのか分からない」
「何をシステム化すればよいか分からない」
という段階で業務を整理することが重要です。
現在の作業、困っていること、Excelや既存システムの状況を整理することで、必要な仕組みが見えてきます。
hiro-dev-labではSaaS選定前の業務整理から相談できます
SaaSかスクラッチ開発かで迷っている場合、最初から開発することを前提にする必要はありません。
hiro-dev-labでは、現在の業務を確認したうえで、
- 業務ヒアリング
- 現状業務の整理
- 課題整理
- 要求整理
- 業務フロー整理
- 必要機能の整理
- SaaSで対応可能な範囲の整理
- SaaSと独自開発の役割分担
- Webシステムの設計・開発
- 業務自動化
- AI活用
といった形で、システム導入前の段階から整理できます。
「SaaSをいくつか比較しているが、自社業務に合うか分からない」
「Excel業務をシステム化したいが、SaaSとスクラッチのどちらがよいか判断できない」
「すべてを開発するのではなく、既存サービスも活用したい」
といった段階でも検討できます。
重要なのは、SaaSかスクラッチかを先に決めることではありません。
現在の業務と課題を整理し、その課題を最も合理的に解決できる方法を選ぶことです。
SaaSで十分ならSaaSを利用し、足りない部分だけ開発する。あるいは独自性の高い業務だけスクラッチ開発する。
このように手段を柔軟に選ぶことで、コストを抑えながら業務に合ったシステムを構築しやすくなります。